中小企業診断士えんさんの視点!

岐阜県を中心に活動している中小企業診断士のえんさんこと遠藤久志が、独自の視点で世相・経営・マーケッティングの本質に迫ります!

日本は何で稼ぎ、雇用していくのか?

 少し前のクローズアップ現代で、経済産業省の(比較的)若手官僚が、「1億2千万人がいかに食っていくか?それを考えていかなくてはならない。」と熱く語っていた。

 「一体、どんな話し合いがなされているんだろう」と思っていたところ、それらしき会議の議事録が公開されていた。

 その会議は、「産業構造審議会産業競争力部会」というらしく、当時「国家戦略局」担当大臣であった菅直人副総理が行った唯一(?)の仕事である「成長戦略基本方針」を踏まえ、日本産業の今後の在り方を示す「産業構造ビジョン(仮称)」を策定するために設置されたものらしい。

参考)産業構造審議会産業競争力部会

http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004660/index.html

 前述の若手官僚が問題提起していた話題が、どうやら第1回である2月25日の会議で検討されたようだ。その主要項目が、非常に興味をそそる。

 第一に、「なぜ、技術で勝って、事業や利益で負けるのか?」。このブログで頻繁に取り上げている話題だ。

 そして第二に、「設計・開発・生産現場は国内に維持できるか?」。最近たびたび取り上げている「自動車産業を、単に雇用を下支えするために補助するのはいかがなものか」、というテーマに通じる話題である。

 そのレジュメをダウンロードしてみてみたが、非常に厳しい現実認識に立脚しており、本質をズバズバついている、という印象だ。

 冒頭で、「日本経済の行き詰まりは深刻。」といきなり「希望的観測」を打ち砕く入り込み。その行き詰まりは、以下の3つの構造的な問題であり、決して「一過性」のものでないと論じている。

1.産業構造全体の問題

2.企業のビジネスモデルの問題

3.企業を取り巻くビジネスインフラの問題

 当会議では、こうした問題を共通の認識とした上で、「今後、日本は何で稼ぎ、雇用していくのか」を検討していく、としている。

 初めに、世界の中の日本の地位低下を示した上で、

・貯蓄率が先進国の中で、すでに最低水準に達している。

・日本の労働分配率は、諸外国より高い。

 という点からも、「所得分配」での内需拡大は限界、日本の「パイ」を拡大しない限り、内需は拡大しない、と断言している。

 また、製造業の就業者数は先進国いずれも漸減傾向にあり、国内の雇用を支える製造業の諸機能、特に生産機能の海外シフトは不可避である以上、「グローバル製造業(輸送機械、電機、鉄鋼、一般機械)」に雇用の”量”の面で多くを期待するのは無理、との認識を示している。

 昨今韓国企業が元気だが、日系企業は同一産業内にプレーヤーが多数存在している一方で、韓国はプレーヤーが少なく、乗用車・鉄鋼・携帯電話・電力などの分野で1社あたりの国内市場は韓国の方が大きいことに着目している。

 なぜ、韓国で寡占化が進んだかと言うと、韓国は97年の通貨危機を契機に財閥企業の多角化を解消、政府の強い関与の元で産業の集約化を実施したからだと言う(産業サイドの対応)。

 一方で日本は85年の円高危機に対し、公共投資を中心に需要サイドで対応し過剰供給状態を温存、今に至るまで国内での消耗戦に目を奪われていると見ている。

 菅直人副総理は、「需要サイドからの景気回復」を唱えている一方、竹中平蔵野口悠紀雄は供給サイドからの景気回復を唱えている(今週の週刊ダイヤモンドでも主張している) 。少なくとも経済産業省の官僚は、当時の親分菅直人とは見解が違うようだ。

 そして、そのような産業構造の問題を抱え続けた結果として、ピラミッド構造の下位に位置する中小企業は、ピラミッド上部の企業と共に苦境に陥り、「共倒れ」のリスクにさらされている。

 次にビジネスモデルの課題として、従来モデルである「垂直統合自前主義」、「商品改良と摺り合わせによる原価低減」の限界を指摘している。

 ここで、現段階では何とかグローバル競争下で検討している産業の例として、自動車とデジタルカメラを紹介している。しかし、自動車は電気自動車の普及によってモジュール化も予想される。

 一方で、この資料においてはデジカメを「クローズ/オープン戦略」の成功モデルとして位置づけており、「内部構造を完全ブラックボックス化」、「外部インターフェイスは国際標準化」ということで、この成功モデルを水平展開したい意図がうかがえる。

 しかし、安穏とはしていられない。サムスン電子は既にこの春、デジタル一眼分野への参入を実現している。その背景には、今まで日本勢が独壇場であったイメージセンサー、レンズ、光学部品、各種電子部品など基幹部品の製造技術の取得を、着々と進めているからに他ならない。

参考ブログ)『サムスン電子のデジタル一眼は脅威か?』

http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-848c.html

 さらに調べてみると、サムスン電子がこれだけ短期間にデジタル一眼分野への参入を実現した裏には、日本人技術者が次々と、サムスンのスカウトに応じている、という現象が進行中、とのことのようだ。昨日囲繞した記事の後半には、こんな驚くべき事実も書かれている。

 「昨年夏、またもや日本の有能な技術者たちがサムスンの軍門に下ったことは、業界内でもほとんど知られていない。電子部品業界の雄、村田製作所から最前線の技術エンジニア数名がサムスンに移籍した。村田製作所からは数年前にも、幹部クラスの人材がサムスンに引き抜かれている。今回はこの人脈を利用し、最新の製造技術に携わるエンジニアの獲得に成功したようだ。

 また光学系部品では、住田光学ガラスやタムロンといった、一般の日本人がその名を知らないような中小企業にまで食指を伸ばしたという情報もある。住田光学は、一眼レフカメラ用レンズを中心に、幅広く高度な光学部品を手がける埼玉県の有力メーカー。一方のタムロンは、ソニー製ビデオムービーのカメラレンズなどを手がけるやはり埼玉県の有力技術系企業である。」

『日本に仕掛ける「焦土作戦」 サムスン電子 (下)』

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100323-00000302-sentaku-bus_all 

 少し話がそれたが、2月25日の時点で「成功モデル」として紹介されたデジカメ分野においても、着々とアジア勢が勢いを増している、そうした厳しい現実認識に立脚する必要がある、ということを我々は肝に銘じなくてはならない。

 最後に、今後の日本の産業構造の方向性として、現在のグローバル製造業以外(ものづくり企業のみならず、ファッション、食料品、観光、アニメなど「感性・文化産業」も含む)も)海外マーケットとのつながりをもつこと、国内市場においては環境・エネルギーや少子高齢化対応のビジネスへの期待感を込めている。

 アニメなど文化産業の輸出、と言って思い出すのが、麻生政権時代の通称「アニメの殿堂(公称は、「国立メディア芸術総合センター(仮称)」)。基地問題同様、麻生政権のものをひっくり返しておきながら、同じようなものをまた持ち出すんじゃないだろうか・・・。

 いずれにしても、この会議は6月1日にとりまとめが予定されている。その時に鳩山政権はすでに過去のものとなっている可能性はきわめて高いが、この会議が着実に進められ、実効性のある価値ある提言と政策立案されることを、大いに期待していきたい。

↓「いよっ!その通り!」と思ったら、下記へのクリックお願いします。

拍手する

↓「なかなか鋭いね!」と思ったら、下記にもクリックを!

にほんブログ村 士業ブログ 中小企業診断士へ
にほんブログ村

中小企業診断士えんさん』の公式サイトはこちら

http://www.kuon-manage.jp