中小企業診断士えんさんの視点!

岐阜県を中心に活動している中小企業診断士のえんさんこと遠藤久志が、独自の視点で世相・経営・マーケッティングの本質に迫ります!

『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』-2

 と、いうわけで、前回の続き。前回の記事を読んでいない方は、まずこちらをご一読いただきたい。

2009年8月13日 (木)

『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』-1

http://noir-kuon.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-6335.html

 昨日は前置きだけで終わってしまったが、今日は『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』を読んで、「なるほど~」と唸った箇所を、ひたすら紹介していきたい。

・日本の自動車産業は、あと15年で壊滅状態となる。なぜなら、ガソリン自動車から電気自動車に移行することによって、自動車は摺りあわせが強みとして生きる「インテグラル型製品」から、パソコンのように組み立てが簡単な「モジュラー製品」になってしまうからである。

・「成長」と「発展」は違う。成長は既存モデルの量的拡大、発展は新規モデルへの不連続以降である。これを”イノベーション”と呼ぶ。

 ← オタマジャクシのまま大きくなるか?オタマジャクシからカエルに変わるか?

・日本は1970年代から80年代にかけて、インプルーブメント、つまり「モデル練磨競争」に勝ってきた。しかしこれからはプロダクトイノベーション、つまり「ゲームのルールを変えた者」のだけが勝つ。

 ← 相撲に磨きをかけたと思ったら、競技がテニスになっていた。

イノベーションの第一原則、従来モデルの改善をいくら突き進めても、イノベーションは起こらない。

 ← ソロバンから電卓は生まれない、ということ。

・生産性の向上だけで”競争力”を語るなかれ。

・ハイブリッドは「従来モデルの延命策」である。しかし「延命策は、実は短命」。なぜなら、ハイブリッドカーの性能が上がる、ということはそれだけ電気自動車の実現を引き寄せることになるからである。

・アキバで電気自動車が売られる日も近い。そして自動車のデーラーはかつての写真フィルムの現像所と同じ運命を辿る。

・日本メーカーの負けパターン/画期的な発明を基に画期的な製品を作り市場に導入、しばらくは100%近いシェアを誇るものの、市場拡大とともにNIEs/BRICs諸国に追いつかれ、シェアを落としていく。

・日本の「惨敗パターン」は、ビジネスの垂直分離がなされると同時に国際斜形分業が加速し、商品の爆発的普及が始まるからである。半導体も液晶も、DVDもすべて同じ構造である。

・従来の日本の大企業が得意としてきた「垂直統合型、自前主義、企業群の切磋琢磨」モデルは、もはや通用しない。しかし未だに日本企業は、従来のイノベーションモデルでいくさを仕掛けようとしている。

・自社技術を特許で囲って排他的に実施するのではなく、イノベーションを先導しつつ特許を公開して「市場拡大」と「収益確保」を同時に達成する、という戦略も有効だ。

・実は、過去の日本において、「技術のオープン化による新規モデルの普及」を実現した例がある。それは日清食品の”即席ラーメン”である。特許を公開することで市場に粗悪品が出回らなくなり、その結果市場が爆発的に拡大する効果が期待できる。

・これからの国際標準は、「先進国の国力・技術力・国数」ではなく、「新興国の人口と潜在購買力」に依存して決まるモデルに移行することが、大いにありうる。ブルーレイもデファクトスタンダードになったが、中国にHD-DVD技術が移ったことで、こちらがデファクトスタンダードになることも、大いにありうる。

 ← 前々回のブログに書いた電圧の国際標準も、中国がカギを握っていた。

・新しいモデルの基本的な骨格は、従来は「インベンション(発明)」×「イノベーション(新価値の創出)」であった。これからは、「インベンション(発明)」×「イノベーション(新価値の創出)」×「ディフュージョン(普及)」である。

・新しいイノベーションモデルは、協業と分業を組み合わせて加速度をつけることがポイント。すなわち垂直統合の分断=脱・自前主義である。

・マジョリティに普及させるために、キャズム死の谷)を乗り越えるには、「斜形」分業で普及までの時間の短縮化を図ること。つまり「脱・抱え込み主義」である。

・重要なのは、イノベーションのイニシアチブを取ること。そのためには、ディフュージョン(普及)までを視野に入れて、イノベーション全体のシナリオを描くこと」である。日本企業はこれがまるっきり出来ていないから、市場拡大のタイミングで「惨敗」となるのである。

・日本の企業には、「イノベーションを起こす技術力があれば大丈夫」といってはばからない経営者が何と多いことか。彼らに「ではなぜ、その技術力がありながら事業で勝てないのか?」と問うと、途端に歯切れが悪くなり、「頑張ります」と日本陸軍的な精神論に逃げ込む。

・いくら危機感があっても、危機感の源をしっかり見極め、自分の企業で対処できるかどうか理解しなければ、本当の危機感のレベルには足しているとは言えない。

・日本人は教わるのは得意だが、自ら学ぶのは余り上手くない。負けたとき、悔しいときに、日本人は徹底的に解明することを嫌がる傾向にある。リフレクション(振り返ること)を「反省」というネガティブな表現に訳すのはよくない。「省察」と訳すべきだ。

・日本人は負けても、「一所懸命やったから・・・」、と「水に流す」伝統があるが、水に流す前に真摯に振り返ることが重要である。

 といったように、ズバリ本質を突いた指摘が満載の書籍である。前半では、新たな時代のイノベーションモデルの成功例としてインテルとアップルを紹介し、基幹部品主導で完成品を従属させる「インテル・インサイド」、商品イメージで部品を従属させる「アップル・アウトサイド」と、それぞれのモデルにネーミングをつけている。

 そして後半は、特許を中心とした知財マネジメントの要諦について述べているが、これについても前々回のブログで紹介したTV番組同様、「技術」のみに着目するのではなく、「その技術をいかに戦略的に活用するのか?」という観点の重要性を説いている。そして21世紀は、20世紀の「有形資産重視経営」から「無形資産重視経営」に移行している、という指摘は、『ものつくり敗戦』が指摘したことと、相通じるものがある。

 最後に、以上のような「今、そこにある未来」にどう立ち向かえばよいのか?、そのヒントとして本日読んだ本『徹底のリーダーシップ』から引用したい。

 「とてつもない不確実性と失望の中で、多くの人は拒絶反応を起こす。怖気づく人もいる。(中略)とりわけいまのような状況下では、恐怖は命取りとなる。机の下にもぐって指をくわえているだけのリーダーは必ず失敗する。バックミラーで過ぎ去った過去を覗き込んでも何の足しにもならない。将来の問題から目を逸らしているだけである。

 拒絶と同じくらい危険なのが、甘い希望である。われわれは、困難に直面すると、「これはもうすぐ終わる。そうしたらまた元に戻る」と自分に言い聞かせる傾向がある。それを信じてはいけない。新しい世界がどんなものになるかは誰にもわからないが、確かななのは、過去とは違う世界になるということだ。」

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